簿記や金融の知識がなくても、資金調達や投資家などの仕組みがわかるようになる「いろはファイナンス」のシリーズ。これから起業やスタートアップを目指す人なら押さえておくべき用語まで、まるっと解説!
評価額はあくまで自分用の物差し
金額と比率が決まると、次に向き合うのが評価額だ。今回は、その評価額をどう決めるかを見ていく。
評価額とは、会社の値段のことだ。バリュエーションという呼び方もよく使われる。この数字次第で、同じ調達額でも手放す株式の量が変わってくる。
評価額と聞くと、経営者が自信を持って掲げる看板のような数字を想像するかもしれない。しかし実際には、評価額は先に決めるものではない。
順番はむしろ逆だ。調達額と、手放してもいいと考える比率の2つが先にあり、評価額はそこから逆算して求める、自分用の物差しだ。
たとえば1億円を集めたいとする。手放す比率を20%に決めたなら、出資後の評価額はおよそ5億円になる。1億円という金額を、20%という比率で割った額が、会社全体の値段になるという考え方だ。
この物差しを持っておくと役に立つ。投資家との会話で自分がどれくらいの評価額を名乗るべきか、また株を渡しすぎていないかを、自分なりに点検できるようになるからだ。
現実は理屈通りにいかない
ここまでの計算は、あくまで理屈の上での話だ。実際の交渉の場では、評価額は言い値に近い形で決まっていくことが少なくない。
特にシード期は、売上などの判断材料がまだ乏しく、評価額の根拠を積み上げで示すことが難しい段階だ。起業家が名乗った金額を出発点に、投資家との対話の中で水準を探っていくことになる。
当初に名乗った価格がそのまま通ることは、むしろ少数派だ。交渉を重ねる中で、当初の希望額から下げて着地するケースも珍しくない。逆算で作った数字は、あくまで自分の手元に置いておく物差しだと考えておいた方がいいだろう。
調達額と株式比率が導く評価額
逆算という考え方は、2つのことを測るための道具だ。1つは、自分がいくらと名乗るかという出発点。もう1つは、株を渡しすぎていないかという歯止めだ。
ただし、最終的にどの評価額に落ち着くかは、この物差しだけでは決まらない。事業の進捗、投資家同士の競争の有無、そして交渉の結果によって決まっていく。
ここで気をつけたいのが、評価額を無理に高く見せようとする動きだ。評価額が高いほど格好がいいと感じる起業家は少なくない。
しかし評価額を無理に高くすると、次の調達のときに前回より低い評価額しか付かない事態を招きかねない。この状態はダウンラウンドと呼ばれ、投資家からの信頼を損ないやすい出来事だ。逆算の物差しは、こうした無理な見せかけを避けるためのものでもある。
シード期の交渉では、価格そのものに固執しない姿勢も有効だ。まず投資家に興味を持ってもらうことを優先し、評価額は相談しながら決めたいという構えで臨む。当初の希望より低い評価額でも、納得できる相手と条件で着地できれば、調達としては成功と言える。
評価額を決めずに調達する方法もある
評価額の交渉自体を後回しにする方法も広まっている。代表的なのがJ-KISSやSAFEと呼ばれる契約方式だ。
これは、その時点での正確な評価額を決めずに、将来の評価額に上限だけを先に設定して出資を受ける仕組みだ。次の資金調達で評価額が確定した際に、あらかじめ決めた上限や条件に従って株式に変換される。
創業からごく初期の段階では、正確な評価額を出すための材料自体がまだ乏しいことが多い。評価額の議論に時間をかけすぎず、まず資金を受け取ることを優先する狙いで、この方式が使われる。
参考までに、日本の相場観にも触れておく。2024年時点の調査では、シードラウンドの調達額の中央値はおよそ4,000万円、出資を受けた後の評価額の中央値は4億円前後とされている。相場から大きく外れた評価額を名乗ると、それだけで話が進みにくくなると知っておくと役に立つ。
まとめ
評価額は、調達額と手放す比率から逆算して求める、自分用の物差しだ。1億円を放出比率20%で集めるなら、出資後の評価額はおよそ5億円になる。
しかし実際の評価額は、交渉と競争の中で決まっていくものだ。当初に名乗った価格から修正を重ねながら、着地点を探ることになる。無理に高く見せると、ダウンラウンドという形でしっぺ返しを受けることもある。評価額を決めずに調達するJ-KISSやSAFEという選択肢も、初期の段階では有効だ。
次回は、価格の設計が決まった後、実際にどう動いて資金を集めるのかを見ていく。何社に声をかけ、どう投資家に出会っていくのか。実際の動き方に入っていく。
用語ミニ辞典
- バリュエーション(評価額):会社の値段のこと。会社全体の価値をいくらとみなすかを示す数字。
- プレ・ポストバリュエーション:出資を受ける前の評価額をプレ、受けた後の評価額をポストと呼ぶ。
- ダウンラウンド:次の資金調達で、前回より低い評価額しか付かない状態のこと。
- J-KISSとSAFE:評価額を確定させず、将来の上限だけを決めて出資を受けられる契約方式。



