ますます身近な存在になってきたAI。そもそも、AIの正体とはいったいなんなのだろう。ゼロから丁寧にAIを学び直す、超入門AI講座を全5回でお届け。第1回を読めば、会社の会議でAIの話題に困らず・・・第5回まで読めば業務にAIを活用できるように…! 読むだけで、AIの基礎が自然と身につく、これから学びを始める人に優しく寄り添う集中レッスンです。
数十人の智慧ある先賢に手をとられ、ほとんど、いろはから教えたたかれて、そうして、どうやら一巻、わななくわななく取りまとめた。
― 太宰治「創作余談」
(先人たちに手を取られ、いろはから叩き込まれて、やっと一冊を書き上げた)
天才も、一から教わっていた。情報があふれる今、私たちは基礎や前提を学ばないまま進みがちだ。この連載は、実学をいろはから手ほどきする。
「このAIは、学習して賢くなります」。こんな説明を聞いたことはないでしょうか。
機械が「学習する」とは、いったいどのような状態を指し示しているのでしょう。当たり前ですが、教科書を読むわけでも、ノートを取るわけでもありません。第2回では、その「学習」の正体をつまびらかにしていきます。
機械学習とは、何か。
機械学習とは、大量のデータからコンピュータが“自動的に”パターンを見つけ出す技術のことです。「機械」と聞くと、工場のロボットや家電のような姿を思い浮かべるかもしれません。しかし機械学習でいう「機械」は、あくまでもコンピュータのことを指します。以降、「機械」と「コンピュータ」の両方の言葉が出てきますが、どちらも同じものとして読み進めてください。
カギは「自動的に」という部分。人間が参考となるデータを機械に渡すと、コンピュータが自らルールを見つけ出します。また、パターンとは、データの中にひそむ規則性を指します。たとえば「気圧が下がって湿度が高くなると、雨が降りやすい」など。天気予報の裏側でも、こうした膨大なデータからパターンが割り出されているのです。
人間はこうした天候の傾向を、経験から何となく感じ取ることができます。機械学習が行なっているのは、その勘をデータから数字として取り出す作業。ベテランが長年かけて培った勘どころを、データで再現する仕組みと捉えると、全体像が見えてきます。
機械学習と従来のプログラムの違い
そもそも「従来のプログラム」とは、人間が「もしAならBをする」というルールを、コードとして一つひとつ書いて作るソフトウェアのこと。たとえばエクセルの関数や電卓アプリ、昔ながらの迷惑メールフィルタなどが該当します。
共通点はシンプルで、人間がルールを全部書き、コンピュータはそれに従って動くだけという点。これをルールベースと呼びます。
迷惑メールフィルタで考えてみましょう。ルールベースなら、人がルールを書き足していきます。「件名に『当選』が入っていたら迷惑メール」「知らないアドレスのリンクは迷惑メール」。こうした条件を一つずつ、手で登録していきます。
しかし、この方式では限界があります。迷惑メールの送り主は、次々と新しい手口を編み出すので、終わりのない追いかけっこをしなければなりません。
一方、機械学習では、私たち人間がルールを書く必要がありません。代わりに、「これは迷惑メール」「これは普通のメール」のように、参考になるメールを大量に機械に渡します。すると、迷惑メールに共通するパターンを自ら見つけ出すのです。
つまり、従来のプログラムでは「ルールを考えるのは人間、実行するのは機械」となり、機械学習では「データを用意するのが人間、ルールを見つけるのは機械」に変化したのです。
この転換によって、大きく3つのことが可能になりました。
- 1
ルールを言葉にできない問題も扱える人は「これは猫」と瞬時に判断できますが、その基準をルールで書き下すのは至難の業。機械学習であれば、大量の猫の写真を渡すだけでコンピュータが自分で特徴を掴みます。顔認証や音声認識も、この仕組みで実現しています。
- 2
変更があっても自動で追随できる迷惑メールの手口が変わっても、新しいデータを渡すだけで機械が判定基準を更新します。人がルールを追いかけて書き直す手間から解放されました。
- 3
人間が気づかないパターンも見つけられる通販のおすすめ機能に代表される「Aを買った人はBも買う」という発想は、人間の直感を超えたパターンをデータから引き出せる機械学習だからこそ実現したものです。
これまでコンピュータが苦手だった「あいまいさを含むタスク」が、一気に扱えるようになった。それが、機械学習が起こした根本的な変化です。
機械学習には3つの方式がある
機械学習と一口に言っても、学び方は一つではありません。代表的な方式が3つあります。
学習の正体は「数式の調整」
では、機械が「学習する」とき、内部では何が起きているのでしょう。データに合うように、数式を少しずつ微調整していく。その地道な計算の積み重ねが答えです。機械学習の内部には、入力から答えを計算する数式があります。その数式には、調整できる「つまみ」のような数字がたくさんついている。これをパラメータと呼びます。
学習とは、このつまみを少しずつ回していく作業のこと。データを一つ見るたびに、答えに近づくよう、つまみをちょっとだけ回す。それを大量のデータで、何度も何度も繰り返す。すると数式が、だんだん正しい答えを出せるようになっていきます。
私たち人間が、テスト前に過去問をたくさん解く場面を思い出してください。解くうちに出題の傾向がつかめてくる。機械の学習も、これと似ています。データという過去問をひたすら解き、つかんだ傾向をパラメータに刻み込んでいくのです。
最新の機械学習「ディープラーニング」とは?
ここまで来れば、ニュースでよく聞くあの言葉も、あと一歩で完全に理解できます。ディープラーニングとは、人間の脳の神経回路をまねた「ニューラルネットワーク」を、何層も深く重ねた機械学習の手法のこと。機械学習の中の、一つの発展形です。
これまでの機械学習との違いは、実は一つだけ。「どこに注目するか」を人間が教えるかどうかです。猫を見分けさせるなら、「耳が三角」「ひげがある」といったチェックリストを、まず人間が作って渡す必要がありました。ディープラーニングは、ここが違います。小さな子どもが「猫の定義」を教わらなくても、何度も見ているうちに犬と猫を見分けられるようになるのと同じで、大量の写真から「どこを見ればいいか」ごと自分で見つけ出すのです。
心臓部のニューラルネットワークは、大人数の伝言リレーだと思ってください。写真を受け取る受付係(入力層)、情報をバトンのように受け渡す大勢の中間係(隠れ層)、最後に「これは猫です」と発表する係(出力層)。
一人ひとりは「斜めの線があるか」程度の単純な判断しかしませんが、層を重ねるうちに「三角の耳」「ひげらしき線」とまとまっていき、最後に大きな判断になります。この層の重なりが深いから「ディープ」なのです。
そして、賢くなる仕組みはさっきの「つまみ回し」と同じ。係と係のつながり一本一本につまみ(パラメータ)がついていて、その数は数百万から、多いもので数千億個。だから大量のデータと高性能なコンピュータが必要になります。顔認証も、ChatGPTのような生成AIも、このディープラーニングが土台です。
AIと人間の役割分担がビジネスチャンスに
機械学習は、研究室の中だけの話ではありません。気づいていないだけで、毎日あなたのすぐ隣で動いています。
たとえば、コンビニ。「夏の暑い日は、冷たい麺がよく売れる」。過去の販売データからそんなパターンを見つけて、お店は仕入れる量を決めています。これが需要予測。
クレジットカードを作るときの審査もそうです。「きちんと返済してきた人たちのデータ」と見比べて、申し込んだ人がどれくらい共通しているかを判定する。これが与信審査。
そして、NetflixやAmazonに出てくる「あなたへのおすすめ」。あなたと似た選び方をした人が、次に何を選んだか。そのパターンから表示されています。これがレコメンドです。
もう一つ、覚えておくとビジネスで役立つ性質があります。機械学習は「過去のデータから最適のパターンを見つける」仕組みでした。言い換えると、過去に例がないことを予測するのは苦手ということです。コンビニの例で言えば、「去年と同じような夏」なら売れ行きを当てられます。でも「タピオカが突然大人気となる」ような、過去のデータがない流行やブームは予測できません。
だからビジネスでは、次のように使い分けられます。「これまで通りなら、次はどうなる?」は、AIの得意分野なのでお任せ。「これまでとまったく違うことをやってみよう!」については、人間が判断する仕事。つまり、AIに何を任せて、何を自分で決めるか。その線引きはここが出発点となるのです。
次回は、この機械学習とディープラーニングの土台の上で、文章や画像を「作り出す」生成AIの正体に進みます。



