簿記や金融の知識がなくても、資金調達や投資家などの仕組みがわかるようになる「いろはファイナンス」のシリーズ。これから起業やスタートアップを目指す人なら押さえておくべき用語まで、まるっと解説!
なぜ会社は利益を待たずに資金を集めるのか
数十人の智慧ある先賢に手をとられ、ほとんど、いろはから教えたたかれて、そうして、どうやら一巻、わななくわななく取りまとめた。
― 太宰治「創作余談」
(先人たちに手を取られ、いろはから叩き込まれて、やっと一冊を書き上げた)
天才も、一から教わっていた。
情報があふれる今、私たちは基礎や前提を学ばないまま進みがちだ。スタートアップにおけるファイナンスの実学をいろはから手ほどきする。
たとえば、あなたが小さなパン屋を開くとする。材料を仕入れて、店を借りて、パンを焼いて売る。この一連の流れを始めるには、売上が入ってくる前に資金が必要だ。会社を作って事業を大きくする時も、同じことが起きる。先に資金を用意してから、事業を動かす。これが資金調達の出発点だ。資金調達とは、事業に必要な資金を外部から集める活動のことだ。
会社は利益が出るのを待ってから活動を広げる、という順番でも成り立つ。実際、多くの中小企業はこの順番で経営している。
だが、成長を急ぐ会社ほど、この順番では間に合わない。人を雇う、商品を作る、広告を出す。これらはすべて先に資金が出ていき、売上や利益は後から追いかけてくる。
特にスタートアップと呼ばれる会社は、この先行投資を大きく取る。スタートアップとは、短期間で大きな成長を目指す新しい会社のことだ。数年以内に多くの利用者を集め、事業の規模を一気に広げようとする。
その結果、初期の数年間はあえて赤字を作ることがよくある。売上より先に人件費や開発費がかさむからだ。この赤字を乗り越えるための橋渡しとなる資金が必要になる。それが資金調達だ。
つまり資金調達とは、成長のスピードを買うための行為だと言える。自分たちの手元にある資金だけで進めるより、外部から調達した資金を使うことで、成長のペースを早められる。
資金はこう集める。3つの方法
会社が資金を用意する方法は、細かく分けると数多くあるが、大きく3つに整理できる。
一つ目は自己資金だ。創業者自身の貯金や、これまでの事業で得た利益を使う方法だ。誰にも返す必要がなく、誰の意見も聞く必要もない、もっとも自由な資金だ。
二つ目は借りることだ。金融機関や公的機関から資金を借り、決められた期日までに利息をつけて返す。これをデットファイナンスと呼ぶ。デットとは英語で借金を意味する言葉だ。
三つ目は出資を受けることだ。投資家に会社の株式を渡し、その代わりに資金を受け取る。これをエクイティファイナンスと呼ぶ。エクイティとは英語で株式や所有権を意味する言葉だ。
この3つのうち、自己資金には限りがある。多くの会社は、事業が育っていく過程で、借りることと出資を受けることの両方、あるいはどちらかに頼ることになる。
資金には「返すもの」と「返さないもの」がある
借りることと出資を受けること。この2つには、決定的な違いがある。その資金を返す義務があるかどうかだ。
借りた資金は必ず返す。期日が来れば、利息を上乗せして返済しなければならない。事業がうまくいかなくても、返済の義務は残る。
一方、出資を受けた資金は返す義務がない。投資家は株式と引き換えに資金を出しているため、会社側が期日までに現金で返すという約束はしていない。
ただし、出資を受けた資金にも代わりに手放しているものがある。会社の所有権の一部だ。株式を渡すということは、会社の将来の利益や意思決定の一部を、投資家と分け合うということだ。この点は次回、詳しく追っていく。
返す資金か、返さない資金か。この分かれ道が、資金調達を理解する最初の一歩になる。どちらが良い悪いという話ではなく、会社の状況によって組み合わせ方が変わってくる。
まとめ
会社は成長のスピードを上げるために、利益が出る前から資金を集める。その方法は自己資金、借りること、出資を受けることの3つに整理できる。借りた資金には返済の義務があり、出資を受けた資金にはその義務がない代わりに、会社の所有権の一部を手放す。このうち自己資金は、個人の事情に左右される部分が大きいため、このシリーズで扱うのは主に「借りる」と「出資を受ける」この2つになる。
次回は、返済義務のない資金であるエクイティの仕組みを詳しく解説していく。
用語ミニ辞典
- スタートアップ:短期間で大きな成長を目指す新しい会社のこと。
- デットファイナンス:金融機関などから借り入れて資金を集める方法。
- エクイティファイナンス:株式を渡す代わりに出資を受けて資金を集める方法。
- 資金調達:事業に必要な資金を外部から集める活動全体を指す言葉。



