ライブコマースという熱狂

“Whatnotの最新アップデートを公開した。配送にかかる時間が買い手に見えやすくなり、ひとつの予算で番組全体を宣伝できるようになり、番組の設定ツールも賢くなった。”

Whatnot公式(@Whatnot)2025年5月の投稿より(日本語訳)

テレビショッピングの時代を覚えているだろうか。深夜のテレビ画面で、ホストが熱心に商品を紹介し、視聴者が電話で注文する。あの体験が、スマートフォンの中で復活している。しかも、はるかにインタラクティブで、はるかに中毒性の高い形で。

ライブコマースとは、ライブストリーミングとeコマースを融合させた購買体験だ。売り手がリアルタイムで商品を紹介し、視聴者はチャットで質問しながら、その場でワンタップで購入する。中国ではすでに巨大市場となっており、TaobaoライブやDouyinが年間数兆円規模の取引を生み出している。

しかし、欧米市場ではライブコマースはなかなか定着しなかった。Amazon LiveもFacebook Liveショッピングも、期待ほどの成果を上げられなかった。そんな中、一つのスタートアップだけが異常な熱狂を生み出していた。それがWhatnotだ。

Whatnotの誕生とコレクティブル市場

“Whatnotへの投資を発表する。ライブ配信で買い物ができるプラットフォームであり、コレクターズアイテムを没入感のある形で売買できるマーケットプレイスだ。Whatnotのチームと組んで、ライブショッピングを米国に持ち込めることを楽しみにしている。”

出資元a16z(@a16z)2021年3月の投稿より(日本語訳)

Whatnot社は2019年12月、グラント・ラフォンテーンとローガン・ヘッドによってロサンゼルスで創業された。二人の出会いはコレクター文化への深い共鳴から生まれている。

ラフォンテーンのコレクター歴は、7歳頃にさかのぼる。当時の主流だったYahoo!オークションで初めてカードを売ったのが原体験で、ホログラフィック・チャンシーのポケモンカードを売って郵便で受け取った10ドルのチェックが、彼の「商売の始まり」だった。中学生になるとポケモンカードを売り買いし、20代にはスニーカーの転売で利益を上げていた。コーネル大学(Cornell University)で経済学を学んだ後、GoogleのPMM(プロダクトマーケティングマネージャー)、YouTubeとMeta(当時Facebook)でプロダクトマネージャーを経験。その後、保険比較サービス「The Zebra」を共同創業してCOOを務め、この実績で2017年にForbes 30 Under 30(エンタープライズテック部門)に選出されている。さらにコンテンツ生成ツール「Kit」を共同創業してPatreonに売却した経歴を持つ。一方、共同創業者でCTOのヘッドはモンタナ大学(University of Montana)でMIS(経営情報システム)を学び、19歳で最初の会社を立ち上げた後、二次流通プラットフォームFlight ClubのDirector of Engineeringを経て、スニーカーマーケットプレイスGOATでシニアプロダクトマネージャーを務めた後、Whatnotの立ち上げに加わった。

二人に共通していたのは、コレクティブルの売買が単なる取引ではないという直感だ。ラフォンテーンがYouTubeやMetaのようなプラットフォームで学んだのは、コレクティブルの世界では「信頼」と「体験」が購買の決定要因になるということだった。eBayもメルカリも、写真と説明文だけでは本物かどうか分からない。そこにコミュニティの熱量が加わると、市場はまったく別の顔を見せる。彼が繰り返し語るのは「コレクティブルはアイテムが主役ではない。コミュニティとのやりとりこそが本質で、売買はそのおまけだ」という気づきだ。これが、ライブストリーミングとの掛け合わせを思いついた出発点になっている。

2019年、ヘッドが6週間かけてライブ配信機能をコーディングし、最初の配信でFunko Popを数時間で5,000ドル(約78万円)分売り切った。それがWhatnotの原点だ。コレクティブルという、感情的な価値が大きく、真贋の見極めが重要で、コミュニティの熱量が高いカテゴリに、ライブストリーミングを掛け合わせる。それは単なるeコマースの効率化ではなく、「買い物をエンターテインメントに変える」という根本的な体験の再定義だった。

Whatnotのカテゴリ拡張
Phase 1
Funko Pop
フィギュアコレクター向けに特化してローンチ。熱狂的なファンベースが初期の牽引力に

Phase 2
トレカ・スポーツ
ポケモンカード、NBA Topshot世代を取り込み。パック開封のライブ配信が爆発的人気に

Phase 3
全カテゴリ拡大
ヴィンテージ、ファッション、電子機器、ハンドメイドへ。ライブコマースの総合プラットフォームへ進化

驚異的なエンゲージメント指標

スマートフォンでライブ配信販売を見る様子
【仮・要差し替え】1日95分という滞在時間が、熱狂を物語る(写真:Shutterstock)

Whatnotが他のライブコマースプラットフォームと決定的に異なるのは、そのエンゲージメントの深さだ。数字を見れば、その異常さが分かる。

95分
1日あたり平均滞在時間

80%
月次リテンション率

80億ドル超
2025年GMV(総流通額)

1日95分。これはTikTokの平均利用時間に匹敵する数字だ。しかもWhatnotの場合、単に動画を眺めているのではない。視聴者はチャットで売り手と対話し、オークションに参加し、購入ボタンを押している。つまり、95分間ずっと「購買意欲の高い状態」でアプリを使い続けているのだ。

月次リテンション率80%も際立っている。一般的なeコマースアプリのリテンション率は20〜30%程度。SNSでも50〜60%が標準的な水準だ。80%という数字は、Whatnotがeコマースというより「習慣化されたエンターテインメント」として機能していることを示している。

ポケモンカード、遊戯王、ワンピースカードゲーム、ガンプラ、フィギュア。日本のコレクティブル市場は多層的で奥が深い。特にトレーディングカード市場は近年急成長しており、秋葉原や中野ブロードウェイには海外からのコレクターが殺到している。

にもかかわらず、日本のコレクティブル取引の多くは依然としてメルカリやヤフオクといった静的なマーケットプレイスに留まっている。写真と説明文だけで真贋を判断しなければならず、コミュニティの熱狂は分断されたままだ。ここに、ライブコマースが入り込む余地がある。

もしWhatnotが日本に進出するか、あるいは日本発で同様のプラットフォームが生まれれば、その市場機会は小さくない。日本語でのライブ配信、日本特有のカード文化への対応、コンビニ決済や後払いへの適応と、ローカライズの課題は大きいが、それだけ市場の伸び代もある。

ビジネスモデルと収益構造

“最新のブログを公開した。Whatnotのプロダクトチームが、在庫を滞りなく管理できる新しい出品者向けツール、新しい買い手に報いる紹介コード、そして好みに合った商品や番組を見つけやすくする工夫について話している。”

Whatnot公式(@Whatnot)2024年3月の投稿より(日本語訳)

Whatnotの収益モデルはシンプルだ。売り手から取引額の8%(米国)を手数料として徴収し、これに2.9%+0.30ドルの決済手数料が加わる。出品料や月額サブスクリプションは不要で、実際に売れたときだけコストが発生する仕組みは、参入ハードルを下げながらプラットフォームの拡大を促してきた。

この手数料モデルの強さは、GMVと収益が直結している点にある。2024年の売上高が3億5,900万ドル(約556億円)だったのに対し、2025年は10億ドル(約1,550億円)に達し、GMVは30億ドル(約4,650億円)から80億ドル(約1兆2,400億円)へと倍増した。プラットフォームへの出品数は1日500万件を超え、新規登録者数は1年間で2,000万超に上る。

Whatnotの成長軌跡
2024年
GMV 30億ドル
売上高3億5,900万ドル。スニーカー・トレカ中心に成長基盤を固める

2025年
GMV 80億ドル超
売上高10億ドル。ビューティー(+791%)、電子機器(+444%)など新カテゴリが急伸

2026年6月
累計10億注文
1日200万件超の注文、毎秒20品超を処理。創業6年半で節目を迎える

資金調達と評価額の推移

Whatnotは創業以来、累計9億7,500万ドル(約1,511億円)を調達している。2020年のY Combinator参加で基盤を固め、2022年7月のシリーズDでDST GlobalとCapitalGが共同リードした2億6,000万ドル(約403億円)の資金調達によって評価額は37億ドル(約5,735億円)に達した。

2025年1月にはシリーズEで2億6,500万ドル(約411億円)を調達し評価額が約50億ドル(約7,750億円)に達した後、同年10月のシリーズFで再びDST GlobalとCapitalGが共同リード。Sequoia CapitalやAlkeon Capitalも新規参加し、2億2,500万ドル(約349億円)を調達して評価額は115億ドル(約1兆7,825億円)に倍増した。

評価額の急上昇を支えているのは、投機的な期待ではなく実績だ。2025年のGMV80億ドル超・売上高10億ドルという数字は、欧米のライブコマース市場がようやく「離陸した」ことを示している。53%のセラーが年間売上の大半をWhatnotから得ており、フルタイムセラーも増え続けている。

日本のスタートアップが学べること

日本でライブ配信販売を行う出品者
【仮・要差し替え】日本のライブコマースは、まだ入口にある(写真:Shutterstock)

Whatnotの物語は、日本のスタートアップにいくつかの重要な示唆を与えてくれる。

  • 1
    「ニッチから始めてプラットフォームへ」の王道WhatnotはFunko Popという極めてニッチなカテゴリから始まった。最初から「ライブコマースの総合プラットフォーム」を目指していたわけではない。小さなコミュニティの熱狂を捉え、そこからカテゴリを一つずつ広げていった。日本でも、まず一つの熱狂的なコミュニティを掴むことが出発点になる。
  • 2
    エンゲージメントが全てを決めるWhatnotが証明したのは、「滞在時間」と「リテンション」がGMVを自然に引き上げるということだ。1日95分、月次80%のリテンション。この数字は広告費を投じて作れるものではない。プロダクト体験そのものが生み出す数字だ。
  • 3
    「信頼」をテクノロジーで解決するコレクティブル市場最大の課題は真贋判定だ。Whatnotはライブ配信という形で、商品の実物をリアルタイムに見せることで信頼の問題を解決した。テクノロジーで「安心して買える」環境を作ることは、日本のC2C市場でも大きな差別化要因になる。

日本のライブコマース市場はまだ黎明期だ。17LIVEやSHOWROOMはライブ配信プラットフォームとして成功しているが、コマースとの統合は限定的にとどまっている。メルカリライブも試みたが、大きなブレイクスルーには至っていない。

Whatnotが証明した「ライブ配信 x コレクティブル」の方程式は、日本でこそ最大の効果を発揮する可能性がある。ポケモンカードのパック開封ライブ、限定フィギュアのオークション、ヴィンテージ玩具の鑑定配信。日本のコレクター文化の熱量は、まだデジタルで解放されていない。

評価額115億ドル(約1兆7,825億円)。その根源にあるのは、テクノロジーでもビジネスモデルでもなく、「人は共有された興奮の中でモノを買いたがる」というシンプルな人間の欲求だ。この欲求は国境を超える。日本市場でこの欲求に応えるプラットフォームを作る者は、次のユニコーンになるかもしれない。

起業家への示唆

  • 1
    自分の「原体験」がプロダクトの設計図になるラフォンテーンは7歳からカードを売り続けた経験があったからこそ、コレクティブル市場の本質的な課題を言語化できた。創業者自身が長年抱えてきた不満や原体験は、PMFを最短で見つけるための地図になる。
  • 2
    「取引」ではなく「コミュニティ」を売るWhatnotが競合と決定的に差別化したのは、「モノを売る場所」ではなく「熱狂を共有する場所」を設計したことだ。ユーザーが毎日95分使い続けるプロダクトは、機能ではなく体験と帰属感で作られる。
  • 3
    シリアルファウンダーの経験を「構造化して持ち込む」ラフォンテーンはThe ZebraでのCOO経験とKit売却を経てWhatnotに臨んだ。前職での失敗と成功を構造化して次の会社に持ち込む姿勢が、ゼロから学ぶ起業家との差を生む。

参考文献

  • 「Meet the founders who turned a Funko Pops obsession into Whatnot, a $11.5B live-shopping platform」(founded.com、2025年)
  • 「Whatnot raises $225 million at an $11.5 billion valuation as live commerce finally breaks through in the West」(Startup Fortune、2025年10月)
  • 「Whatnot Secures $225 Million In Series F Funding Co-Led By DST Global And CapitalG」(TradedVC、2025年10月28日)
  • 「Whatnot revenue, valuation & funding」(Sacra、2026年)
  • 「Report: WhatNot Business Breakdown & Founding Story」(Contrary Research、2025年)
  • 「How the Co-Founder of Whatnot Built a $3.7 Billion Business」(Inc.、2023年)
  • 「Grant LaFontaine – CEO & Co-Founder at Whatnot」(The Org)
  • 「Logan Head – Co-Founder & CTO at Whatnot」(The Org)
  • 「UM Business College to Host Co-Founder of Whatnot for Lecture」(University of Montana、2026年1月)
  • 「Whatnot Recaps 2024, Shares Hot Trends Heading Into 2025」(Value Added Resource、2024年)
  • 「Whatnot’s Global GMV Doubles Year-over-Year to Reach $8 Billion in 2025」(ebrun.com、2026年)
  • 「Whatnot is worth $11.5 billion、and its sellers just hit one billion orders」(Fortune、2026年6月18日)
  • 「Whatnot 2026 Live Selling Report: Growth, Friction, and the Future of Live Commerce」(Value Added Resource、2026年)
  • 「Marketplace Building Spotlight: Whatnot’s Grant LaFontaine」(NEA、2022年)

※本文中の円換算は1ドル=155円で計算した参考値です。為替レートにより実際の金額は変動します。