ますます身近な存在になってきたAI。そもそも、AIの正体とはいったいなんなのだろう。ゼロから丁寧にAIを学び直す、超入門AI講座を全5回でお届け。第1回を読めば、会社の会議でAIの話題に困らず・・・第5回まで読めば業務にAIを活用できるように…! 読むだけで、AIの基礎が自然と身につく、これから学びを始める人に優しく寄り添う集中レッスンです。
数十人の智慧ある先賢に手をとられ、ほとんど、いろはから教えたたかれて、そうして、どうやら一巻、わななくわななく取りまとめた。
― 太宰治「創作余談」
(先人たちに手を取られ、いろはから叩き込まれて、やっと一冊を書き上げた)
天才も、一から教わっていた。情報があふれる今、私たちは基礎や前提を学ばないまま進みがちだ。この連載は、実学をいろはから手ほどきする。
実は、AIは70年前からある技術です
いよいよ最終回です。ここまでの回で、機械学習・ディープラーニング・生成AIと、いまのAIがどんな技術で構成されているのか見てきました。今回は仕組みの話から少し離れて「なぜ “今” これほど注目されているのか」を、AIが歩んできた歴史からたどります。
あなたはAIという言葉を聞くと、なんだか取り残されている気がしますか? その焦りの一因は、AIが「ここ数年で急に現れた最新テクノロジー」に見えるからです。実はそうではありません。AIという言葉が生まれたのは1956年、いまから70年も前のことなのです。
その年、アメリカのダートマス大学で、ひと夏の研究集会が開かれました。これを「ダートマス会議」と呼びます。そこで主催者の数学者John McCarthy(ジョン・マッカーシー)らが、「Artificial Intelligence(人工知能)」という言葉を使ったのが始まりです。
当時の研究者たちが語ったのは「人間の脳のように考える機械は、数十年あれば作れる」という壮大な夢でした。コンピュータがまだ部屋いっぱいの大きさだった時代の話です。この期待の大きさこそ、その後の歴史を理解する鍵になります。
3度のブームと2度の冬の時代
AIの70年は、3つの山と2つの谷で説明できます。まずは全体の波形を図で見てみましょう。

3度のブームには、それぞれ主役の技術がありました。第1次(1950〜60年代)は「探索・推論」。迷路やパズルのように、ルールが決まった問題の正解をコンピュータに探させる技術です。第2次(1980年代)は「エキスパートシステム」。専門家の知識をルールの形で教え込み、その道のプロのように判断させる仕組みです。そして第3次(2010年代〜現在)が「ディープラーニング(深層学習)」。人間の脳の神経をまねた仕組みで、AIが大量のデータから自分で特徴を学び取ります。今のブームは、ここから始まりました。
では、第1次も第2次も最初は大きく盛り上がったのに、なぜどちらも冬を迎えたのか。理由はシンプルです。期待が大きすぎて、技術が追いつかなかったのです。第1次のAIは、迷路やパズルのような「おもちゃの問題」は解けても、複雑な現実の問題には歯が立ちませんでした。「研究室では解けるのに、世の中の役には立たない」——この落差に失望が広がり、研究費が止まってしまったのです。
第2次ブームのエキスパートシステムは、専門家の知識をルールにして教え込む方式でした。ところが、知識のルールは数えきれないほどあります。それをすべて人間の手で入力し、更新し続けるのは現実的ではありませんでした。手入力の限界にぶつかり、再び冬の時代が訪れました。
この2度の冬から学べる教訓があります。AIは「大きな期待」から始まり、「期待と現実のギャップ」で冷める、という繰り返しです。だからこそ、今のブームも「期待だけが先行していないか」を確かめる目が大切になるのです。
今回のAIブームこそが「本命」か?
ここで、素朴な疑問が湧きます。現在のAI第3次ブームは、誰かの天才的な発明で始まったのでしょうか。それとも、技術が自然に進歩した結果なのでしょうか。答えは、「両方」です。
火付け役は、ジェフリー・ヒントン(Geoffrey Hinton)です。第2回でも紹介したディープラーニングの生みの親です。ニューラルネットワーク研究が「冬」で見向きもされなかった時代も研究を続け、2006年、深い層を学習させる方法をついに確立しました。そして2012年、教え子たちと作った「AlexNet」が画像認識コンペで圧勝。世界が一斉に振り向きました。この功績で、ヒントンは2024年にノーベル物理学賞を受賞しました。
ただし、発明だけではブームは起きませんでした。脳を真似するというアイデア自体は1943年からあり、それが60年以上も花開かなかったのは、2つの条件が足りなかったからです。1つ目は、学習のための大量のデータ。ただその点については、インターネットの普及で、写真も文章も、かつてない量が集まりました。その技術の象徴は、スタンフォード大学のフェイフェイ・リー(Fei-Fei Li)が2009年に公開した「ImageNet(イメージネット)」で、これは1,400万枚もの「ラベル付き」画像集の役割を果たしています。2つ目は、計算力。ディープラーニングの学習には膨大な計算が要りますが、ここで意外に立役者となったのが、もともとゲームの映像処理用の部品だったGPUです。単純な計算を大量に同時にこなす性質が学習にぴったりで、数ヶ月かかっていた計算が数日で終わるようになりました。
つまり、種(ニューラルネットワークというアイデア)は70年前からあったが、水(データ)と日光(計算力)のそろった2010年代に、一気に花開いたということなのです。第3次ブームは「一人の発明」ではなく、「粘り強い発明」と「時代の条件」が出会って生まれたのです。
第3次ブームを支えた3つの要素
過去のブームでは、知識やルールを人間が手で入力していました。第3次では、AIがデータから自分で特徴を学びます。第2次の弱点だった「手入力の限界」を、この3点セットが乗り越えたのです。成果は次々に現れました。2012年のAlexNet(画像認識)、2016年のAlphaGo(囲碁)、そして公開からわずか5日で100万ユーザーを集めた2022年のChatGPT。おもちゃの問題しか解けなかった過去とは違い、今のAIは画像も、囲碁も、文章も扱えます。研究室の外で、誰もが毎日使う道具になった、これこそが「今が本命のAIブーム」と言われる理由です。
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2012年: AlexNetの圧勝画像認識のコンペでディープラーニングを使ったAlexNetが優勝。誤認識率を約10ポイント改善し、世界に衝撃を与えた
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2016年: AlphaGoの勝利囲碁AIのAlphaGoが韓国のトップ棋士イ・セドル九段に4勝1敗。「人間に勝つのは当分先」とされた囲碁で起きた出来事
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2017年: Transformerの登場Googleの論文でTransformerという新しい仕組みが発表される。これが今の生成AIの土台になった
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2022年: ChatGPT公開11月30日に公開。わずか5日で100万ユーザー、2ヶ月で1億ユーザーに達した
私たちは今「第4次ブーム」の入り口にいる
最近では、ChatGPTのような生成AIの広がりを「第4次AIブーム」と呼ぶ見方も出てきました。文章や画像を自分で作り出す生成AIは、これまでとは別の段階だ、という考え方です。その勢いは数字にも表れています。ChatGPTの週間利用者は2026年2月に9億人へ達し、日本でも、インターネット利用者の生成AI利用率は54.7%(ICT総研 2026年2月)と、半数を超えました。
第3次の続きと呼ぶか、第4次と呼ぶかは、専門家の間でも意見が分かれます。どちらが正しいかを覚える必要はありません。大切なのは、AIの歴史が「ブームと冬の繰り返し」だと知っておくことです。歴史を知っていれば、新しいニュースに出会ったとき「これは期待先行か、それとも実際に役立っているか」を自分で見分けられます。流行に振り回されず、冷静に判断する——それが、この70年の歴史を学ぶいちばんの価値です。



