📖 読了まで置10分
World Startup Report - vol.28

1日95分滞在するアプリ。Whatnot $11.5Bのライブコマース

AU
ABOUTUS編集部
World Startup Report
World Startup Report

ライブコマースという熱狂

公開情報によると、

テレビショッピングの時代を覚えているだろうか。深夜のテレビ画面で、ホストが熱心に商品を紹介し、視聴者が電話で注文する。あの体験が、スマートフォンの中で復活している。しかも、はるかにインタラクティブで、はるかに中毒性の高い形で。

ライブコマースとは、ライブストリーミングとeコマースを融合させた購買体験だ。売り手がリアルタイムで商品を紹介し、視聴者はチャットで質問しながら、その場でワンタップで購入する。中国ではすでに巨大市場となっており、TaobaoライブやDouyinが年間数兆円規模の取引を生み出している。

しかし、欧米市場ではライブコマースはなかなか定着しなかった。Amazon LiveもFacebook Liveショッピングも、期待ほどの成果を上げられなかった。そんな中、一つのスタートアップだけが異常な熱狂を生み出していた。それがWhatnotだ。

Whatnotの誕生とコレクティブル市場

Whatnotは2019年、Grant LaFontaineとLogan Headによってロサンゼルスで創業された。二人はともにコレクター文化の中で育ち、特にFunko Popフィギュアやトレーディングカードに熱狂する人々のコミュニティをよく知っていた。

LaFontaineは以前、StockXで働いていた経験がある。StockXはスニーカーやストリートウェアの二次流通マーケットプレイスだ。そこで彼が気づいたのは、コレクティブルの世界では「信頼」と「体験」が購買の決定要因になるということだった。

この着想がWhatnotの原点だった。コレクティブルという、感情的な価値が大きく、真贋の見極めが重要で、コミュニティの熱量が高いカテゴリに、ライブストリーミングを掛け合わせる。それは単なるeコマースの効率化ではなく、「買い物をエンターテインメントに変える」という根本的な体験の再定義だった。

Whatnotのカテゴリ拡張
Phase 1
Funko Pop
フィギュアコレクター向けに特化してローンチ。熱狂的なファンベースが初期の牽引力に

Phase 2
トレカ・スポーツ
ポケモンカード、NBA Topshot世代を取り込み。パック開封のライブ配信が爆発的人気に

Phase 3
全カテゴリ拡大
ヴィンテージ、ファッション、電子機器、ハンドメイドへ。ライブコマースの総合プラットフォームへ進化

驚異的なエンゲージメント指標

Whatnotが他のライブコマースプラットフォームと決定的に異なるのは、そのエンゲージメントの深さだ。数字を見れば、その異常さが分かる。

95分
1日あたり平均滞在時間

80%
月次リテンション率

$6B+
累計GMV(総流通額)

1日95分。これはTikTokの平均利用時間に匹敵する数字だ。しかもWhatnotの場合、単に動画を眺めているのではない。視聴者はチャットで売り手と対話し、オークションに参加し、購入ボタンを押している。つまり、95分間ずっと「購買意欲の高い状態」でアプリを使い続けているのだ。

月次リテンション率80%も驚異的だ。一般的なeコマースアプリのリテンション率は20〜30%程度。SNSでも50〜60%が標準的な水準だ。80%という数字は、Whatnotがeコマースというより「習慣化されたエンターテインメント」として機能していることを示している。

ポケモンカード、遊戯王、ワンピースカードゲーム、ガンプラ、フィギュア。日本のコレクティブル市場は多層的で奥が深い。特にトレーディングカード市場は近年急成長しており、秋葉原や中野ブロードウェイには海外からのコレクターが殺到している。

にもかかわらず、日本のコレクティブル取引の多くは依然としてメルカリやヤフオクといった静的なマーケットプレイスに留まっている。写真と説明文だけで真贋を判断しなければならず、コミュニティの熱狂は分断されたままだ。ここに、ライブコマースが入り込む余地がある。

もしWhatnotが日本に進出するか、あるいは日本発で同様のプラットフォームが生まれれば、その市場機会は計り知れない。日本語でのライブ配信、日本特有のカード文化への対応、コンビニ決済や後払いへの適応 — ローカライズの課題は大きいが、ポテンシャルもまた巨大だ。

日本のスタートアップが学べること

Whatnotの物語は、日本のスタートアップにいくつかの重要な示唆を与えてくれる。

  • 1
    「ニッチから始めてプラットフォームへ」の王道Whatnotは Funko Popという極めてニッチなカテゴリから始まった。最初から「ライブコマースの総合プラットフォーム」を目指していたわけではない。小さなコミュニティの熱狂を捉え、そこからカテゴリを一つずつ広げていった。日本でも、まず一つの熱狂的なコミュニティを掴むことが出発点になる。
  • 2
    エンゲージメントが全てを決めるWhatnotが証明したのは、「滞在時間」と「リテンション」がGMVを自然に引き上げるということだ。1日95分、月次80%のリテンション。この数字は広告費を投じて作れるものではない。プロダクト体験そのものが生み出す数字だ。
  • 3
    「信頼」をテクノロジーで解決するコレクティブル市場最大の課題は真贋判定だ。Whatnotはライブ配信という形で、商品の実物をリアルタイムに見せることで信頼の問題を解決した。テクノロジーで「安心して買える」環境を作ることは、日本のC2C市場でも大きな差別化要因になる。

日本のライブコマース市場はまだ黎明期だ。17LIVEやSHOWROOMはライブ配信プラットフォームとして成功しているが、コマースとの統合は限定的にとどまっている。メルカリライブも試みたが、大きなブレイクスルーには至っていない。

しかし、Whatnotが証明した「ライブ配信 x コレクティブル」の方程式は、日本でこそ最大の効果を発揮する可能性がある。ポケモンカードのパック開封ライブ、限定フィギュアのオークション、ヴィンテージ玩具の鑑定配信 — 日本のコレクター文化の熱量は、まだデジタルで解放されていない。

$11.5Bの企業価値。その根源にあるのは、テクノロジーでもビジネスモデルでもなく、「人は共有された興奮の中でモノを買いたがる」というシンプルな人間の欲求だ。この欲求は国境を超える。日本市場でこの欲求に応えるプラットフォームを作る者は、次のユニコーンになるかもしれない。

買い物を、
エンターテインメントに。
それがWhatnotの答えだ。

1日95分、80%のリテンション。Whatnotが証明したのは、コマースの未来は「効率」ではなく「熱狂」の中にあるということだ。

← 前の記事
AIエージェントを守る、Noma Securityの正体
次の記事 →
AIが弁護士の仕事を変える。リーガルテックEvenUp $2Bへの道
すべての記事を見る →
TOP