01海洋が持つCO2回収の巨大ポテンシャル
気候変動を食い止めるために、CO2を大気から直接回収する技術 — カーボンリムーバル — が注目されている。排出量を「減らす」だけでは間に合わない。すでに大気中にあるCO2を「取り除く」必要がある。IPCCの報告書は、2050年までに年間10ギガトンのCO2除去が必要だと試算している。
公開情報によると、現在最も注目されているのがDAC(Direct Air Capture / 大気直接回収)だ。ClimeworksやCarbon Engineeringといった企業が、大気中からCO2を直接吸い取るプラントを建設している。しかし、DACには根本的な課題がある。コストが高すぎる。現在のDACコストは1トンあたり$600〜$1,000。これは経済的に持続可能なスケールに達するには、あまりにも高い。
ここで、まったく異なるアプローチが登場する。海洋だ。海は大気の約150倍のCO2を溶かし込んでいる。海水からCO2を抽出する方が、薄い大気から吸い取るよりも、桁違いに効率的ではないか — この仮説から出発したのが、Capturaだ。
02Caltechの研究室から生まれた技術
Capturaは、カリフォルニア工科大学(Caltech)の研究から生まれたスタートアップだ。Caltechは、NASAのジェット推進研究所(JPL)を運営し、ノーベル賞受賞者を数多く輩出する世界最高峰の理工系大学。Capturaの技術は、このCaltechの電気化学研究グループから誕生した。
Capturaの技術の核心は、電気透析(electrodialysis)と呼ばれるプロセスだ。海水に電気を流すことで、海水のpH(酸性度)を操作する。pHが下がると、海水中に溶けているCO2(炭酸イオンや重炭酸イオンの形)がガスとして放出される。このCO2を回収し、海水は元のpHに戻して海に返す。
このプロセスの画期的な点は2つある。第一に、化学薬品を使わない。電気だけでプロセスが完結するため、再生可能エネルギーと組み合わせれば、完全にクリーンなCO2回収が実現する。第二に、海水からCO2を取り除くと、海がさらにCO2を大気から吸収する。つまり、海を「リフレッシュ」することで、間接的に大気中のCO2も減らせる。一石二鳥のメカニズムだ。
03DAC $1,000/ton vs 海洋 $65/ton
カーボンリムーバルの世界で、コストは最も重要な変数だ。どれだけ優れた技術でも、経済的にスケールしなければ地球規模の課題は解決できない。
DACの現在のコストは$600〜$1,000/ton。Climeworksの最新プラントでも$400/ton程度だ。一方、Capturaが目指すのは$65/ton。桁が違う。この差は、「大気中の0.04%のCO2を捕まえる」DACと、「海水中にはるかに高濃度で存在するCO2を取り出す」海洋回収の、物理的な効率の差に由来する。
もちろん、$65/tonは「目標」であり、現時点で達成されているわけではない。しかし、技術のスケーリングと再生可能エネルギーのコスト低下を考慮すると、専門家たちはこの目標は「挑戦的だが実現可能」と評価している。カーボンクレジット市場で取引されるCO2の価格が$50〜$200/tonであることを考えると、$65/tonは経済的に持続可能なラインだ。
04XPrize $1M受賞とAramco・日立の出資
Capturaの技術は、すでに複数の権威ある場で認められている。2024年、CapturaはElon MuskのXPrize Carbon Removal競技で$1M(100万ドル)の賞金を獲得した。このコンペティションは、1,000チーム以上がエントリーした世界最大のカーボンリムーバル技術コンテストだ。
資金調達面でも、Capturaは$45MのSeries Aラウンドを完了している。注目すべきは、その投資家の顔ぶれだ。Saudi Aramco Energy Ventures(世界最大の石油会社の投資部門)と、日立ベンチャーズが出資している。
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島国の地理的優位性世界第6位のEEZ、3.5万kmの海岸線。海洋CO2回収の拠点として、地理的に理想的な条件が揃っている。既存の港湾インフラや発電所との併設も容易だ。
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2050年カーボンニュートラル目標との整合日本政府は2050年にカーボンニュートラルを目標としている。排出削減だけでは達成困難な部分を、海洋CO2回収で補完する戦略が有効だ。
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日本企業の技術力との親和性電気透析は電気化学の技術だ。日本は電気化学分野で世界トップクラスの研究実績を持つ。日立の出資はその一例であり、日本企業が技術パートナーとして貢献できる余地は大きい。
06カーボンリムーバルの未来
Capturaの挑戦は、まだ始まったばかりだ。現在はパイロットプラントの段階であり、商業スケールへの道のりには多くの技術的・経済的課題が残っている。海洋生態系への長期的影響の評価、大量の海水を処理するためのエネルギー効率の最適化、規制フレームワークの整備 — 解決すべき問題は山積みだ。
しかし、Capturaが示したのは、気候変動という人類最大の課題に対して、「海洋」という新しい戦場が存在するという事実だ。DACに注目が集中する中、海洋CO2回収というアプローチが物理的に合理的であり、コスト面でも圧倒的に有利である可能性が示された。
カーボンリムーバル市場は、2030年までに$10B規模に成長すると予測されている。Microsoft、Google、Stripeなどのテック大企業は、すでにカーボンクレジットの前払い購入で数十億ドルをコミットしている。需要は確実に存在する。問題はコストだけだ。そしてCapturaは、そのコスト問題を解決する最も有望なアプローチの一つだ。
日本のスタートアップ、研究者、投資家にとって、Capturaの物語は重要な問いを投げかけている。日本は島国として、海洋カーボンリムーバルの世界的リーダーになれるのではないか。技術力、地理的条件、政策的意志 — 必要な要素はすべて揃っている。足りないのは、この領域に本気で挑戦するスタートアップと、それを支える投資家だけだ。
まとめ: 海からCO2を取り出す Caltechが生んだCaptura
以上、海からCO2を取り出す Caltechが生んだCapturaについて詳しく見てきました。今後もABOUTUSでは最新の動向をお届けしていきます。
海からCO2を取り出す Caltechが生んだCapturaに関する情報は、今後も継続的にアップデートしていく予定です。
海からCO2を取り出す Caltechが生んだCapturaに関する情報は、今後も継続的にアップデートしていく予定です。
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