THE SEED
SPECIAL SERIES - 全5回

KNOW VC

メルカリ、SmartHR、タイミー -
世の中を変えたスタートアップの裏にいた、
「未来に賭ける」プロフェッショナルの全貌。

ABOUTUS
ABOUTUS編集部
VOL. 1

「お金を出す仕事」って
何だろう?

あなたの身近にも、VCの投資先がある

メルカリ、SmartHR、BASE、タイミー - 。これらはすべて、かつて「スタートアップ」と呼ばれる創業間もない小さな会社だった。社員数人、売上ゼロ、オフィスはマンションの一室。そんな状態から始まり、今では数千人が働く企業に成長している。

では、売上もなく、実績もなかったあの頃、彼らはどうやって事業を立ち上げる資金を手に入れたのか。答えは「ベンチャーキャピタル(VC)」から投資を受けた、だ。VCとは、まだ何も証明されていない会社の「未来の可能性」に対してお金を出す、プロの投資家集団のことを指す。

貯金・融資・投資 - 3つの「お金の動かし方」

VCを理解するために、まず「お金の動かし方」の違いを整理しておきたい。

3つの「お金の動かし方」
01
貯金
元本は守られるが、増え方はごくわずか
02
融資(借入)
返済義務あり。売上や担保がなければ借りられない
03
投資
返済義務なし。株式を受け取るハイリスク・ハイリターン

VCが行うのは3つ目の「投資」だ。返済義務がない代わりに、会社の株式を受け取る。投資先が成長して上場すれば株式の価値が何倍にも跳ね上がる。逆に失敗すればゼロ。VCとは、このハイリスク・ハイリターンの世界で勝負するプロフェッショナルなのだ。

VCはなぜ存在するのか - 「誰も貸してくれない」を解決する

世の中には、革新的なアイデアや技術を持っているのに、お金がないせいで事業を始められない人たちがいる。銀行は「返済できる見込み」がなければお金を貸さない。VCは、この「資金のギャップ」を埋める存在だ。

VCが投資した10社のうち、大成功するのは1〜2社。しかし、その1社が100倍、1000倍のリターンを生めば、全体として利益が出る。これがVCのビジネスモデルの根幹にある考え方だ。

エンジェル・VC・CVC・PE - 「投資家」にも種類がある

スタートアップに関わる投資家の分類
エンジェル投資家
個人が自分の資産から出資。元起業家や富裕層が多く、数百万〜数千万円規模。
VC(ベンチャーキャピタル)
「他人から預かったお金」で投資。ファンドを組成し、組織として投資判断から経営支援まで。
CVC(コーポレートVC)
事業会社が戦略目的で設立。自社事業とのシナジーを狙う。
PE(プライベート・エクイティ)
成熟企業の株式を取得し経営改善後に売却。スタートアップ投資とは別物。

VCとは「まだ何も証明されていない会社の未来に賭けて、資金と支援を提供するプロの投資家集団」だ。銀行が「過去の実績」を見て融資するのに対し、VCは「将来の可能性」を見て投資する。

VOL. 2
VOL. 2

お金はどこから来て、
どこへ流れるのか

VCが投資するお金は「自分のお金」ではない

VCは、他者から資金を預かって運用するプロの資産運用者だ。たとえば「50億円のファンド」があったとする。この50億円はVCが自分で稼いだお金ではない。年金基金、大学の基金、大企業、保険会社、個人の資産家 - 「出資者」たちから集めたお金だ。つまりVCは、「お金を預かって、増やして、返す」仕事なのだ。

ファンドの構造 - GPとLPという2つの役割

ファンドの2つの登場人物
GP
General Partner
運用者=VC自身。投資判断と経営支援を行い、リターンを出す責任を負う
LP
Limited Partner
出資する側。個別の投資判断には関与せず、GPを信頼して資金を預ける

GPの収益モデルは「2 and 20」と呼ばれる。ファンド総額の約2%を毎年「管理報酬」として受け取り、利益の約20%を「成功報酬(キャリー)」として受け取る。GPとLPは運命共同体だ。

Overview of Fund Size - THE SEEDの組成ファンドサイズ推移

スタートアップの成長ステージ - プレシードからIPOまで

  • 1
    プレシード / シードプロダクト未完成。調達額は数百万〜数千万円。「誰が作るか」が判断の中心。
  • 2
    シリーズAプロダクトが形になり初期ユーザーがつく段階。数億円規模の調達。
  • 3
    シリーズB / C事業拡大のための大型調達。数十億〜数百億円。採用・マーケティング・海外展開へ。
  • 4
    EXIT(IPO / M&A)上場または買収。VCは保有株を売却してリターンを確定。

「会社の値段」はどう決まるのか - バリュエーション

10億円
バリュエーション
1億円
VCの投資額
10%
取得する株式

この会社が将来100億円で上場すれば、10%の株式は10億円に。1億円が10億円になる - これがVCのリターンの仕組みだ。ただし「ダイリューション(希薄化)」もあり、起業家には成長とともに持分が薄まるトレードオフがある。

VOL. 3
VOL. 3

VCは何を見て
投資を決めるのか

事業計画書の完成度では、投資は決まらない

多くの人は、綿密な事業計画書が決め手になると想像する。だが特にシード期では、計画書の精度よりもはるかに重視されるものがある。

「事業内容は正直なんでもいい。15分のプレゼンで見ているのは、その人が持つ"なぜ"の強さだ」 - THE SEED 代表 廣澤太紀

シード期の投資は、起業家という「人」への投資だ。事業は変わる。でも、創業者の本質は変わらない。だからこそVCは「人」を見る。

VCが見ている3つの軸 - 人・市場・タイミング

投資判断の3軸
最重要
動機の嘘のなさ。THE SEEDでは「誠実さ」を最も重視
×
規模
市場
今は小さくても急拡大する可能性がある市場
×
見極め
タイミング
技術・規制・消費者行動が噛み合う瞬間

ピッチの現場 - 20分で何が起きているのか

THE SEEDでは「THE SEEDトーク」という20分間のショートミーティングを設け、年間200〜300名の起業家と面談している。重視されるのは「対話の質」だ。

「どんな質問をしてもすぐに返ってきた。でも、それでいて相手の話もしっかり受け入れながら、一つ一つ考えて回答されるような方だった」 - トリファ代表 嘉名氏について、廣澤太紀

投資の「後」こそが本番 - 伴走者としてのVC

投資が決まったら終わり、ではない。むしろ投資した後からが本番だ。経営戦略のアドバイス、次の資金調達の支援、採用の手伝い、事業提携先の紹介 - あらゆるサポートを行う。

「売上が数百万円しかない時に大企業の社長との会議に呼んでくれた。普通じゃありえない機会を提供してくれる」 - FiT 代表 加藤氏

VCの仕事は「お金を出して待つ」ことではない。起業家の隣に立ち続け、会社の成長に伴走することなのだ。

VOL. 4
VOL. 4

VCの1日と、
この仕事のリアル

「金融っぽくない金融の仕事」

「いい意味で金融業っぽくない。すごくカジュアルに喋れる雰囲気で、事業の話というよりも人物的なところに焦点を当てて話してくれる」 - FiT 代表 加藤氏

VCの仕事の本質は、数字の分析ではなく「人と向き合うこと」にある。

VCの主な業務 - ソーシングからEXITまで

  • 1
    ソーシング投資先候補を見つける。THE SEEDは年間40回以上のイベントを開催。
  • 2
    デューデリジェンス(DD)事業・市場・競合・チーム・財務を詳細に調査・分析。
  • 3
    投資実行投資条件を交渉し、契約を締結。
  • 4
    バリューアップ投資後の経営支援。採用支援、営業先紹介、資金調達サポートなど。
  • 5
    EXITIPOやM&Aで株式を現金化。10年程度のファンド運用期間で完結。
THE SEED Events Total Participants - 470名(2018)→2,500名超(2024)

どうやってVCになるのか - キャリアパスの実態

THE SEEDの廣澤太紀は、大学在学中にVCを知り、関西から東京に飛び出し、イーストベンチャーズでインターンとして働き始めた。最初の仕事は投資先のオフィス移転の手伝い - 段ボールの解体や椅子の組み立てだ。そこから半年かけて信頼を積み上げ、最終的には自らファンドを立ち上げた。

この仕事の醍醐味と、避けられない厳しさ

VCの醍醐味は「未来を一番近くで見届けられること」だ。THE SEEDの投資先であるニューイノベーションズの中尾氏は、18歳の時に廣澤と出会い、今ではスターバックスの新幹線ホーム店舗に技術を提供するまでに成長している。

1-2社
10社中の大成功
10年
ファンド運用期間
200-300名
年間面談する起業家数
「自分のお金でリスクを取り、社員の人生を背負って意思決定する経営者の判断の重さには、どうしても追いつけない」 - THE SEED 代表 廣澤太紀
VOL. 5
VOL. 5

日本のスタートアップ
エコシステムのこれから

日本のVC市場は、この10年で景色が変わった

日本のVC市場は、この10年で劇的に変化した。未投資残高は約10倍に成長し、スタートアップへの資金供給は年々厚みを増している。

Dry Powder of Japan-Focused VC Funds - 10億ドル(2013)→97億ドル(2023)

東京一極集中 - 6,000億円と550億円の格差

6,000億円+
東京の年間エクイティファイナンス
約550億円
関西全域
10倍超
格差

しかし関西には大学も多く、優秀な人材は確実にいる。THE SEEDが関西に拠点を構えている背景にはこの構造的なギャップがある。

THE SEED Locations - Tokyo, Kyoto, Osaka
「あの時、何か機会があればよかった。今度は自分が機会を提供する側になりたい」 - THE SEED 代表 廣澤太紀

資金の出し手の多様性 - 「誰がVCに預けるか」が変わり始めている

「事業会社の場合は、投資のリターンよりも、新しい企業との交流を通じて事業の可能性を広げることが大事。特にシード期のまだどうなるかわからないところに目を向けるのは、次の時代の芽を育てるという社会的責任でもある」 - ロート製薬 山田会長(THE SEED 3号ファンド最大出資者)

これからの10年 - 日本のスタートアップに必要なこと

「中国の伸びている企業は、先の先の先まで、とてつもないビッグピクチャーを描いて突進していく。日本はやるべきことを着々とやっておかないと、どんどん古い国になっていく」 - ロート製薬 山田会長
「東南アジア、アフリカ、中南米 - 小さないろんな国と結びつく方が、日本としたらユニークな動きができるんじゃないか」 - ロート製薬 山田会長
廣澤太紀

VCは主役ではない。
主役はあくまで起業家だ。

しかし、VCがいなければ舞台は整わない。資金を届け、人をつなぎ、機会を創り出す。その積み重ねが、10年後の日本の産業地図を書き換えていく。

「狂気的な熱狂やビジョンを持った起業家が、新しい何かを作っていくことに変わりはない。その方々の思い描く未来にお力添えするために、時代に応じた適切なチャレンジを自分たちもしていかないといけない」 - THE SEED 代表 廣澤太紀

このシリーズを通じてVCの世界を覗いてみて、少しでも「面白そうだ」と感じてもらえたなら、それがまさにエコシステムの入り口だ。

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